なつぞら(88話7月11日)
●東洋動画作画課
坂場:ヘンゼルとグレーテルは 魔女を殺さずに魔女から逃げ出したいんです。
なつ:その塔には闇の世界を支配する悪魔がいるんです。
下山:悪魔?
神地:面白い!
♪
神地:グレーテルの味方になるんです!
なつ:すごい!
なつが短編映画作りに夢中になっていた ある晩のことでした。
●おでん屋「風車」
なつ:ただいま。
亜矢美と咲太郎:お帰り。
なつ:あっ 蘭子さん!
蘭子:こんばんは。
なつ:お久しぶりです。どうなさったんですか?
咲太郎:俺がお連れしたに決まってんだろ。
雪次郎:なっちゃん お帰り。
レミ子:お帰り。
なつ:みんなそろって 劇団の打ち上げ?
咲太郎:そうじゃないよ。こんな寂しい打ち上げがあるかよ。
茂木:まあ… なっちゃん おいで。
なつ:あ… 茂木社長もいらしてたんですか。
茂木:え~… 影薄いんだな 俺。ウスバカゲロウだよ。
(笑い声)
咲太郎:なつ 蘭子さんはな お前の作ってる漫画映画に声で出るようになってから 声の仕事がたくさん来るようになったんだ。
なつ:へえ… ああ ラジオとか?
咲太郎:違う。外画だ。
なつ:ガイガ?
咲太郎:外国のテレビ映画だよ。吹き替えだ。
なつ:あ~ あの… 川村屋で見たことある あの日本語の外国映画?
咲太郎:そう それだ。テレビの世界では 今 そういう仕事が増えてるんだよ。俺は 蘭子さんについて放送局を回るうちに これはチャンスかもしれないと思ったんだ。
なつ:チャンス?
咲太郎:なつ 俺は劇団を辞めて会社を作ることにした。
なつ:えっ…。
咲太郎:声だけのプロダクションを始めるんだよ。
なつ:声だけの?
咲太郎:声だけの俳優 声優だ。お前の漫画映画にも使えるぞ。な? いいだろ?
なつ:いいだろって言われても…。いいの? それ。
亜矢美:いいんだろうか?
咲太郎:いいんだよ!
亜矢美:う~ん… いいの?
咲太郎:う~ん… いいんだよ!
♪
咲太郎:蘭子さんがうちの所属第1号ということになる。そして雪次郎もレミ子も うちで声の俳優になるんだ。
なつ:みんなで劇団辞めちゃうってこと?
蘭子:まさか 辞めないわよ。
雪次郎:辞めるわけねえべさ なっちゃん。俺もレミ子ちゃんも やっと研究生から劇団員になれるとこまで決まったんだから。
なつ:本当? そんなら どして?
咲太郎:別に 劇団を辞める必要はないんだよ。劇団の芝居をしながら 映画やラジオに出るのと同じだ。俺の会社は声の仕事だけを扱うだけってことだ。赤い星座だけじゃなく いろんな劇団にも声をかけて役者を集めてるんだ。俺は 日本の劇団と役者を救いたいんだ。
なつ:救うって?
咲太郎:声の仕事は 食えない役者の救いにもなるんだ。
亜矢美:どう思います? 社長。
茂木:咲坊 俺はいいところに目をつけたなと思ってるよ。
亜矢美:本当?
咲太郎:本当ですか!?
茂木:これからはいやが上にもテレビの時代になる。放送局も増えて テレビはもう一家に一台の時代になる。
なつ:テレビの時代ですか…。
咲太郎:藤正親分にも褒められたよ。
亜矢美:親分にも話したの?
咲太郎:うん。一応 挨拶に行ってきたんだ。元気にしてたよ。
親分:ごめん。
亜矢美:あっ 藤正親分!
咲太郎:えっ 親分!何か今 親分の気配を感じてたところです!
なつ:お久しぶりです。
親分:なつさんか… 元気かい?
なつ:はい。おかげさまで。
亜矢美:どうぞ どうぞ。いつものですか?親分。
親分:今日は客だねえんだ。咲太郎に頼みがあって来た。
咲太郎:俺にですか? 何でしょう?
親分:おう 入れ!
島貫:やあ 咲坊!
咲太郎:師匠 島貫さん… 松井さんも…!
松井:おう 咲坊 久しぶりじゃねえか。
島貫:よう 亜矢美。
松井:亜矢美ちゃん いい店やってんな。
亜矢美:お久しぶりです。
咲太郎:どうしたんですか? 2人して。
親分:咲太郎 お前 今度 新しい劇場を作るんだろ?
咲太郎:はあ!?
親分:そこへ こいつら 出してやってくんねえか。
松井:どんな劇場だ?
島貫:まさかストリップじゃねえだろうな?
松井:ぜいたく言うな。お前は何でも偉そうだから師匠なんて呼ばれてたんだぞ。
咲太郎:ちょっと待って下さい 親分!
親分:分かってる。そのことは もう水に流せ。昔はムーランで苦楽を共にした仲間じゃねえか。
回想松井:これが博打の戦利品なんだ。質屋に持ってけば ひょっとしたら 10万くらいになるかもしれねえぞ ああ。
松井:あの時は悪かったな 咲坊。お前が金に困ってたから つい…。
なつ:それじゃ お兄ちゃんは その人のせいで警察に捕まったってことですか!?
親分:その罪は自首して償ったんだ。 なつさん 許してやってくれ。
松井:あれは 悪いやつらから 借金のカタを取り戻しただけなんだよ。まさか通報するとは思わなかったもんな。
島貫:「盗人たけだけしい」とはお前のことだ。
松井:こいつと芝居すんのが嫌で あのころはやけになってたからよ。
咲太郎:そのことは別にいいんですよ。
なつ:いいの?
咲太郎:だけど 違うんですよ。俺が作るのは声優のポロダクションですよ。
親分:何だ? そりゃ。
咲太郎:主に 吹き替えの仕事です。ここにいるのが そういう役者です。
松井:なるほどね…。顔じゃ売れない役者のやることか。
蘭子:失礼ね!
レミ子:何言ってんのよ!
雪次郎:あなたは 劇団赤い星座の亀山蘭子さんを知らないんですか?
なつ:雪次郎君 落ち着いて。その人 シャバにいなかったからよ。
松井:とっくにいたよ。
親分:とにかく こいつらの面倒見てくれ。な 咲坊。
咲太郎:分かりました。
●東洋動画作画課
季節は初夏を迎えました。なつたちは「ヘンゼルとグレーテル」のストーリーが固まらず 生みの苦しみを味わっていました。
下山:もうそろそろ決めて 作画の作業に入らないと間に合わないぞ。このままだと 上からもう作るなと言われかねない。次の長編も迫ってきてるわけだし…。
なつ:そんな…。
麻子:もう限界よ…。
なつ:あと1歩のところまで来てるんです。結末が見えてないだけで…。
麻子: ここまで来て 結末が見えてないのが限界だって言ってんの。しょせん 私たちは作家じゃないのよ。絵描きなの。
神地:あの… もう作画しながら考えるっていうのはどうでしょうか?
麻子:ダメ! 何言ってんの。これ短編なのよ。先が見えないで 長さ どうやって測んのよ。
神地:長くなったら 削ればいいかと…。
麻子:時間と労働の無駄!
神地:はい…。
坂場:森なんですよ…。
なつ:森?
坂場:兄を助けようと いちずなグレーテルに心を打たれた魔法使いの魔女が 森を支配する悪魔を裏切り そしてヘンゼルとグレーテルを連れて森の中に逃げていく そこに悪魔の放った無数のオオカミたちが迫ってくる。そこまではいいですね?
なつ:はい。
坂場:あとは その森で何が起きるかです…。僕はこの話 子どもたちがいかにして森を信じられるかだと思っています。それはつまり 自分の生きる世界 生活を信じられるかどうかです。どんなに恐ろしい世界でも そこに生きるものが自分の味方だと思えば 子どもたちは未来を信じることができます。
なつ:森を味方にするってことですか…?
茜:ねえ なっちゃん 北海道に森はないの?
なつ:いや そりゃ ありますよ いっぱい。
下山:う~ん… 森…。
なつは その夜 遅くまで十勝を思い浮かべながら森のイメージを描いていました。
なつ:はあ…。
(森で遭難した夢)
なつ:ええっ! ちょ… ちょっと ちょっと… うわ~ ちょっと ちょっと…!
(夢終わり)
なつ:う~ん…。
坂場:どうしました?
なつ:ええっ!?
坂場:あっ いや あの… うなされてたようなので 具合でも悪いのかと…。
なつ:あっ… 大丈夫です…。ちょっと変な夢見ただけです。
坂場:夢?
なつ:あっ… その夢で 何か思いついたんです!
坂場:何を思いついたんですか?
なつ:魔法です!
坂場:魔法?
なつ:魔女が魔法で森にある1本の木を怪物に変えたらどうでしょうか!?
回想弥市郎:自分の魂を木の中に込めるんだ。
なつ:その怪物がヘンゼルとグレーテルを守るんですよ! 悪魔のオオカミたちをやっつれるんです!
坂場:その怪物って何なんですか?
なつ:えっ 何って?
坂場:いや… 魔女が魔法をかけただけですか?
なつ:いや あの… その怪物が魔女なんです!魔女の魂が森の木に宿ったんです!
坂場:なるほど… 森と魔女が一体化したのか。
なつ:その木に守られたら 森を味方につけたことになりませんか?
坂場:あなたを信じましょう。
なつ:描いてみます。
♪
なつ:こういうの どうでしょう?
坂場:うん…。うん… いいと思います。もっと描けますか?
なつ:はい…。
こうして なつはイメージを描き 坂場はストーリーを作り 2人の作業は朝まで続きました。
茜:それで最後はどうなるの?
なつ:最後は その木の怪物が 悪魔の塔を倒すんです。すると がれきの中から 今まで食べられてきた子どもたちがよみがえるんです。そして木の怪物が その塔があった場所で静かにまた動かなくなる。鳥たちが集まってきて その枝にとまる。木漏れ日が降り注ぎ ヘンゼルとグレーテルを包み込む。ああ 森に平和がやって来た。
坂場:そこで 完!
なつ:はい!
神地:面白い!
なつ:ありがとう!
下山:よし とにかくこれで進めてくれ。うん。
坂場となつ:はい。
坂場:ありがとう。
なつ:こちらこそ ありがとうございます。
とんでもない「ヘンゼルとグレーテル」になりそうだ…。グリムさんに怒られないか?
●感想
木の怪物で映画「ロード・オブ・ザ・リング」を思い出した方も多いはず。あの映画の公開は2002年で17年前。
ついこの間だったはずなのに、もう17年前。はあ~ 時の流れの残酷さよと感嘆して、明日もよろしくお願いいたします。
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●字幕を追って書いておりますが、100%完全ではありませんので、どうかご容赦下さい。
●セリフに関してはその著作権等、一切の権利はNHKさんにあります。
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