NHK連続小説テレビ「わろてんか」3月14日136話。
一同:いただきます。
栞:ああ…うまい。
風太:おいおい何や いつもと品数ちゃうな これ。伊能さんの大根の方がおっきいんちゃうか?これ。熱っ熱っ 何してねん!
トキ:何やの!あんた また目ぇ悪なったんちゃうの?年取ったなあ。
風太:おうおうおう お前も今に来るぞ これ。おい。
栞:皆さん。昨日の事なんだが…。僕で力になれるのなら北村で使ってほしい。
トキ:ホンマですか?
白い:ああ。だが風太君とおトキさんには頼みがある。新しい家が見つかるまでしばらく家に置いてもらいたいんだが…。
風太:ハハハ いや構へん構へん なあ!
トキ:へえ もちろんです。
栞:ありがとう。
てん:伊能さん よろしゅうお願いします。
栞:こちらこそ。
てん:伊能さんには新しく作る映画部の顧問をやってもらいます。
栞:よろしくお願いします。
一同:よろしくお願いします。
てん:で 映画部部長には専務に兼任してもらいます。
トキ:あっ 小道具部屋整理しといたんで部屋として使うて下さいね。
てん:おおきに。
万丈目:で 文芸部からは わてが忙しいんで楓君に参加してもらおうと思います。ええ台本書いてや。
楓:へえ。精一杯やらしてもらいます。
てん:うん よろしゅうお願いします。
風太:俺は反対や。お笑い映画でも恋愛なんか扱うたら当局に目ぇつけられるやろ。
てん:けど 今作られへん映画やからこそお客さんが見たいと思うんとちゃいますか?
キース:またお蔵入りはごめんや。
栞:来月から映画法という新しい法律も施行されるしね。これまでは完成したフィルムを見て検閲が入っていたんだが これからは撮影前の台本から検閲が入る事になる。
楓:つまり 今まで以上に検閲が激しゅうなるいう事です。
てん:検閲ばっかり気にしてたら面白いもん できまへんやろ。
栞:だから検閲側を出し抜く方法を考える。作品の側は喜劇だ。だがその実 中身は人情や恋愛が入ってる。一見すると検閲官も修身の教科書のように思えるような作品を作る。
キース:そら えらい難しそうな話ですな。よっしゃ これはどうや?台本には一見セリフが書かれてないねんけど あぶり出したら出てくるとか。
楓:ほな 恋愛の場面だけ読めんよう えらいちっちゃい字で書くとか。
アサリ:実力行使はどや?台本めくるたんびに ぜぜこ 挟んどくんや。
キース:何やそれ!
(笑い声)
栞:台本に細工をしても完成した作品を見て不許可になったら同じ事なんだ。
風太:それこそ ぎょうさん使た制作費 回収できひんかったら大損やぞ アホ!
てん:でも 女子が好きな恋の話を楓さんが書きますのやろ?
楓:…はい。
てん:男はんの検閲官に分からんよう こっそり入れ込めるんやないやろか。
楓:分かりました。頭絞って考えます。
てん:よろしゅうお願いします。
楓:へえ。
てん:ただいま。
トキ:お帰りやす。
栞:やあ。
てん:えっ伊能さん 何してはんの?
栞:何って見たとおりだよ。
トキ:ホンマ 手際ようて。
栞:独り身が長かったからね。本来なら新しい家をみつけて風太君の家をすぐに出ていくべきだったんだが だからこれはせめてものおわびだ。
てん:おいしそうやわぁ。
トキ:へえ。
トキ:あっこら飛鳥!
飛鳥:おいしい!
栞:飛鳥ちゃん ケチャップつけるとおいしいかもよ。ほら。
トキ:すんまへん。
飛鳥:うち 大きくなったら伊能さんのお嫁さんになりたい。
風太:何で?
トキ:伊能さんがええんやったらええんやないの。
風太:こら!
てん:何や にぎやかでうれしいわ。
栞:僕も家族団らんを味わえてうれしいよ。このまますんなりといけばいいんだが…。今 大陸では戦火が広がっている。国内でも引き締めがますます激しくなるだろう。おてんさんは国から勲章を授かったり女太閤と呼ばれてすこぶる順調だ。だがいつ世間の風向きが変わるか分からない。国のために喜んで命を差し出す。そんな言葉がまもとしやかに語られる時代だ。
風太:ホンマに 江戸時代のお侍さんみたいやな。忠義忠義て もてはやされてるし。
栞:忠義というのは受け取る側にとっては… それに侍だって家族の間の愛や男女の恋があったはずだ。
てん:確かにそうや。
てん:どうですやろ「忠臣蔵」。
キース:「忠臣蔵」!? 何やと思たら それこそ江戸の忠義の話やないか。
てん:そのとおりです。忠義の心だけで動いてた訳やないはずや。伊能さん そうおっしゃいましたね?
栞:ああ。
てん:忠義以外の理由で討ち入りに行く事になったとしたらどないですやろ?
キース:例えば親の借金返すためやとか?好いた女子が吉良屋敷の女中やとか!
楓:はあ~なるほど。急に「忠臣蔵」が身近になるわ。その上「忠臣蔵」は忠義や自己犠牲の話だから検閲が通りやすい。
てん:そうです。忠義の話や思わせといて 分かる人には分かる恋の話を入れるんです。
アサリ:なるほど。それやったら検閲官 出し抜けるかもしれん。
てん:これを北村芸人総出演の「お笑い忠臣蔵」にしましょ。
キース:旅芸人のそっくりさんが身代わりになって 討ち入りの日ぃやのに二日酔いで「おのおの方 討ち入りでござる!」。「討ち入りは明日ですよ」。「あっそやった!」。
楓:何をです?はじめてですか?
トキ:皆さん 遅うまでご苦労さんです。これよかったらどうぞ。
楓:この人ら 恋の場面にいちゃもん つけはりますねん。そんなんいらんて。
てん:妻たちの「忠臣蔵」描きたいのになぁ。
トキ:あんたら 戦や討ち入りに夫を送り出す女子の気持ち 分からん言うの?
アサリ:分かってるわ!
キース:せやけど 出会いなんか描いたら話が面倒くさなるやろ!
楓とトキ:そこが大事やろ!
てん:堀部安兵衛と妻ほりの悲恋も高田馬場の決闘での出会いがあってこそや。
楓:そや その決闘で安兵衛がタスキ忘れた時!
てんとトキ:うん!
楓:縄をタスキ代わりにしようとしたら それを見物してたほりが…。
てん:「それでは縁起が悪うございます。これをどうぞ」て 赤いしごき帯 差し出すんや!
栞:そうそう 赤いしごき帯だ。
トキ:さすが伊能さん 女子の好きな場面 よう分かってはるわ。なあ!
アサリ:どういうこっちゃ?
てん:その赤いしごき帯を差し出すとこが 2人の運命の出会い。そこで女子は胸が熱うなるんです。
楓:うちならこんなふうに書くわ。
ほり・てん:それでは縁起が悪うございます。これをどうぞ。
安兵衛・栞:これから決闘だ。これを借りても そなたにお返しできるかどうか分からん。
ほり・てん:何をおっしゃいます。そんな弱気でいかがなさいます!必ず勝ってこれを返しに来て下さい。
安兵衛・栞:あい分かった。
トキ:よろしいな。初めて出会った日ぃに 男はんのおいどをたたいて励ます女子。
てん:帯の色が赤なんが運命の糸みたいで またええんや。
アサリ:そんなもんかなぁ。
栞:そういうもんみたいだよ。
風太:伊能さん 起きてる? ホンマに恋愛の映画なんか作って大丈夫か?今回はでっかい金が動く。専務としては危ない橋は渡りとうない。
栞:いずれ全ての娯楽が禁止されてもおかしくない世の中だ。僕は検閲を出し抜く方法に賭けてみたい。うまくいけば僕らにとって大きな希望になる。
風太:分かった。けどもし検閲に引っ掛かったら 手直ししてでも上映する。よろしな?
栞:ああ。
山下専務:伊能さんが北村笑店の映画部の顧問になったとかで。
新世紀キネマ工藤:ほう。北村笑店ですか。
山下専務:ええ。
トキ:ほな よろしゅうな。
雑誌記事「女太閤北村てんは金の亡者 過去の悪行を告発」
てん:何やの これ。
トキ:どないしたんです?
てん:ああ…何でもない。
風太:おい 社長!社長!
トキ:うわっもう うるさいな!
風太:これや。通天閣が売りに出されるらしい。
てんとトキ:通天閣が!?
風太:おお。通天閣いうたら大阪の象徴や。訳の分からん会社に買われたら絶対にアカン。この北村笑店をますますおっきくしたいんやったら てんが勲章をもろた女太閤やいわれてる今が絶好の機会や。おう 通天閣買うて北村の名をとどろかすんや!
てん:待って 目立てば何でもええちゅう話やないし えらいお金がかかる事や。
トキ:そうですな。
てん:うん まずは役員会にかけて…。
風太:ああ…もうそないに悠長な事言うてて先越されたら一大事やぞ。
トキ:あんたホンマ短気やわ。
風太:おい誰がタヌキや!
トキ:タヌキなんかひと言も言うてへんわ!耳まで悪なったんか!
※このコラム内の写真は全てテレビ画面からの引用で、その全ての権利はNHKにありますので予めご了承願います。
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