NHK連続小説テレビ「わろてんか」3月16日138話。
楓:社長「お笑い忠臣蔵」の台本できました。
万丈目:楓君 よう頑張ったな!
楓:ほな早速 東京の内務省に送ります。
風太:まあこれやったら検閲通るやろ。俺が保証するわ。
トキ:あんたは検閲官でも何でもないやろ。
てん:余計心配やな。
楓:ホンマですな。
風太:何でや おい!
と、てんが心配したとおり…。
内務省
風太:呼び出しなんて やっぱりいやなもんや。
てん:台本 何か検閲に引っ掛かったんやろか。
川西:内務省検閲官の川西です。どうぞお座り下さい。この「お笑い忠臣蔵」の台本の事ですが…。
風太:いや何やろ お気に障らはりました?いや うち 北村笑店はね こう 慰問団でも寄付の面でもお国からえらい褒めてもらいまして いや 社長なんで こないだ勲章まで授かったんです。
てん:ホンマありがたい事ですなぁ。
風太:ホンマなぁ あん時 緊張…。
川西:ここのセリフ 大高源吾が小野寺秀富を兄と紹介していますが 大高が小野寺の兄です。大高源吾は小野寺を弟と紹介すべきところ 都合3か所 兄と言っています。これは作者の思い違いか それとも何か意図があるのですか?
風太:いやこれ間違うてますわ。いや もう 何してんねや…。アホやな あいつらなぁ もう。
てん:ええ これはきっちり直しますわ。
川西:分かりました。それから次の部分 え~と2枚めくってもらって内蔵助のセリフのところ…。
てん:検閲 無事 通りそうです。
風太:何やなあ 拍子抜けやったな。
てん:ホンマに。
栞:楓さんが慎重に言葉を選んでくれたおかげだ。
楓:うちの出番はここまでです。あとは皆さんの奮闘に期待して 完成 楽しみにしてます。
風太:よし 今日は祝いや。乾杯!
一同:乾杯!
楓:これから撮影 どう進めはるんですか?
栞:まだ役者が決まっていないが…
風太:準備には1か月はかかるやろな。
栞:全体ではないが…。
万丈目:安兵衛の妻の役はうちの芸人さんの中で
栞:後で話そうと思って…。
リリコ:ほな 四郎さんは?
万丈目:堀部安兵衛か?
栞:安兵衛は…。
万丈目:アカン!安兵衛は
てん:みんな 伊能さんが答える間 ないやないの。
万丈目:ハハッ みんな苦労しはったさかい 自分の映画や思ってるんですわ。
栞:さあ食べよう 食べよう。君たちも手伸ばしてね。
一同:へえ。
風太:いよいよ撮影やな。
栞:風太君 本当にありがとう。感謝してる。
風太:何やおい 水くさい。それより どや ホテル暮らしは。長屋が恋しいんちゃうか?
栞:君の寝相の悪さには耐えられないよ。何度 蹴られたか。
風太:あんたも歯ぎしり すごいで。
栞:そうか。
風太:なかなか。おお。
風太:北村で喜劇映画 作るんやな。藤吉おったらそりゃ喜んだやろ。
栞:うん。
風太:藤吉亡うなって てんはよう頑張ってる。ぎょうさん つらい事もあるやろに。
てん:どうです?
技師:すんません。
てん:撮影よろしゅうお願いします。
技師:お願いします。
風太:伊能さん これからもてんの事 支えたって下さい。
栞:ああ。
歌子:何や しけた顔して。どないしたん?
アサリ:わいが内蔵助や思とったら わいの役は討ち入り前に逃げ出した奴やて。
歌子:うん あんた よう逃げておらんようになるからぴったりちゃうか?
アサリ:せやねん!うっさいわい!
歌子:でその「忠臣蔵」どんな話になるんや?
アサリ:恋愛もんや。
歌子:恋愛もん?
アサリ:あ~ わいもきれいな女優さんと恋に落ちる役 やってみたかったわぁ。
歌子:よう そんな台本 検閲通ったな。
アサリ:せやねん。恋やら愛やら女子はんの好きそうな話を 気付かれんよう うまい事台本に入れ込んでるんや。
歌子:さすが伊能さんやなぁ。
アサリ:そんでな その赤いしごき帯っちゅうのが…。
翌日
てん:えっ「お笑い忠臣蔵」が検閲保留に?はい…分かりました。すぐに伺います。
風太:おい 検閲保留て どういうこっちゃ?
てん:いや 分からへん。とにかく行ってみんと、堪忍。頼むな。
風太:東京行ってくるわ。
てん:どういう事ですやろ。
川西:ですから 軽薄な男女の恋愛を崇高な忠義の話に紛れ込ませて 一見 そうと分からないように描いているのではないですか?具体的にはこの堀部安兵衛と妻ほりの別れの場面です。ほりが安兵衛に渡す赤いしごき帯。
てん:へえ。
川西:見事 本懐を遂げてほしいとセリフにありますが このしごき帯を渡す事の意味は 本当は無事に帰ってきてほしいという事なんじゃないですか?今から戦場に赴く夫に 命の未練を思い起こさせるような描写は許されない! それからここ。魚屋の女房が亭主に「今晩 早く帰ってきて」というセリフ。
てん:それもですか?
川西:この場面のセリフとしては問題ありませんが その直前の浪士と町娘の別れに重ね合わせれば隠された意図が見えてきます。
風太:そないなふうには…。
川西:今から言う全てが変更できなければ検閲を通す事はできません!
キース:おい 待てって・おい!
アサリ:制作中止かもしれんて わいらの出番 どうなるんや!
キース:すんません。けど 通りそうやったのに何でや?まれで誰かが俺らの邪魔してるみたいや。
てん:まだ制作中止と決めた訳やあらへん。
風太:そや。検閲官の言うとおり直して再提出するか これから相談や。まあ 撮影入る前でよかった。
工藤:伊能栞さん。ようやく会えました。新世紀キネマの工藤と申します。あたなが関わる映画が日の目を見る事はありませんよ。
栞:どういう意味だ?
工藤:あなたは国にとって自由主義的傾向がある要注意人物だ。
栞:検閲保留は君ら新世紀の差し金か。
工藤:お国にご注進しただけです。
社員:ごくろうさまです。
風太:何やて!?おう東京いてるて どういうこっちゃ!
トキ:今朝から社長がいてへんさかい 心配してたんですけど東京にいはるて。
風太:おう 検閲の順番待ってるて どないするつもりや?
川西:お待たせしました。台本 もう直されたんですか?
てん:いいえ。
川西:は?
てん:お願いします。このまま もういっぺん読んでもらえまへんか?
川西:何度読んでも同じ事です。どうぞお引き取り下さい。
てん:検閲官は映画がお好きやないと務まらへんお仕事やて聞きました。
(ドアが開く音)
別の官僚:失礼します。川西さん お話が。
てん:お笑いも映画も根本は一緒や思てます。人生 苦しい事悲しい事ぎょうさんありますけど それを乗り越えるためには たっぷり泣いてたっぷり笑う事です。そのために「お笑い忠臣蔵」を作りたいんです。親子の愛も夫婦の絆も男女の恋も どれも泣いてわろて明るい気持ちで映画館を出てもらうために必要なんです。
人の気持ちを惑わそうとかお国に盾つこうとか そんな気ぃは一切ございません。映画がお好きな検閲官さんやったら この事きっとお分かり頂ける思て お願いにあがりました。
川西:この安兵衛とほりの別れの場面 僕は好きです。
新世紀キネマの工藤と伊能フィルム前社長・伊能栞の対決は、真田信尹と小野政次との調略合戦のような印象。「真田丸」マニアと「おんな城主直虎」のファンが喜ぶカットがこれ。
※このコラム内の写真は全てテレビ画面からの引用で、その全ての権利はNHKにありますので予めご了承願います。
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